2019年4月、アメリカのボストンにて開催されたワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)において、14位に入賞したブラジル代表Martha Grill(マーサ・グリル)バリスタのプレゼンテーションを紹介します。
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突き抜けた明るさがとても印象的なMartha GrillバリスタはブラジルのOctavio caféでバリスタヘッドトレーナーとして活躍されています。
その経験を活かして、新人バリスタあるあるを中心に「新人バリスタが必ず体験する3大恐怖」を各コースを通してお話されています。
世界トップレベルのバリスタトレーナーからのアドバイスが聞けるため、特に新人バリスタさんは”不安や恐れ”と”愛やワクワクする気持ち”は表裏一体という考えを念頭においてプレゼンを確認してみてはいかがでしょうか。
ちなみにMartha Grillバリスタが所属するTeam Knockbockがチーム戦で優勝しました。
Team Knockbockのメンバーは、以下の5名で、
- Kanda Thochampa – タイ
- Wojtek Bialczak – ドイツ
- Martha Grill – ブラジル
- Michalis Dimitrakopoulos – ギリシャ
- Joo Yeon – 韓国
韓国代表、ギリシャ代表、ドイツ代表はスコアでトップ15位に入っていたため、次にチーム内でスコアの高いMartha Grillバリスタがワイルドカードポジションを獲得し、セミファイナルへ出場しました。(ワイルドカードについて詳しく知りたい方は、ワイルドカードについてを確認してみてください。
「南米」という広いくくりでみても、2000年から始まったWBC史上で4人目のセミファイナリストとなります。
セミファイナル・ファイナルへ出場した歴代南米のバリスタ
- 2011年8位のコロンビア代表LINA ZEAバリスタ
- 2010年8位のブラジル代表YARA CASTANHOバリスタ
- 2007年6位のブラジル代表SILVIA MAGALHAESバリスタ
ブラジルの代表者がセミファイナルのステージに参加するのは、2010年8位のYARA CASTANHO以来9年ぶりの素晴らしい快挙となります。
WBC 2019 -14位Martha Grill-プレゼン動画
World Barista Championship セミファイナルの動画で確認できます。
WBC 2019 -14位Martha Grill-プレゼン概要
使用コーヒー1:ブラジル・ドナ ネネン農園・ナチュラル・カーボニックマセレーション・イエローブルボン
- 国:ブラジル
- 地域:セラード、ミナスゼライス(Cerrad, Minas Gerais)
- 農園:ドナ ネネン(Dona Nenem)
- 生産者:Eduardo Pinheiro Campos
- 品種:イエローブルボン
- プロセス:ナチュラル・カーボニックマセレーション
ドナ ネネン農園のカーボニックマセレーションについて
チェリーは摘み取られた後、すぐに密閉タンクへ移される。
最大温度22℃で管理し、二酸化炭素充填によって40時間のアナエロビック(嫌気性)環境で発酵させる。
このカーボニックマセレーションプロセスが、このコーヒーのフレーバーを拡張している。
その後、23日間アフリカンベッドで乾燥される。コンスタントな温度管理をしており、1日24時間のうち、18時間は日陰で乾燥させ、6時間は日光の下で乾燥させることで、コーヒー豆内部の水分量を徐々に減少させることができ、均一な脱水が可能となる。
プレゼンの要旨
Octavio caféでヘッドトレーナーとして働いている。
80人以上の新人バリスタをトレーニングしてきて、彼らの喜びや葛藤を間近で見てきた。
新人バリスタが陥りがちな行動パターンがある。その中でもバリスタとして必ず経験する3つの最大の恐怖が存在する。
1つ目が、エスプレッソの調整
エスプレッソは毎日比率が変化する。1日の間でも数回調整を施す。
バリスタの1つの小さなミスがこの仕事に関わった全てのサプライチェーンの仕事を不満足なものにしてしまう。
2つ目がミルクのスチーミング
理論的には良いミルクと練習が必要。
良いミルクとは適切な量の糖質、タンパク質、脂質があるミルク。
糖質は甘さのため、タンパク質はドリンクの構造に関わり、脂質はフレーバーとフォームを安定化するために必要。
しかし実際はもっと複雑である。
ラテアートのデザインが描けるようなテクスチャーもありつつ、エスプレッソとのバランスをとるのが新人バリスタの最難関課題の一つとなる。
最高の解決策としてベンプット氏から学んだミルクの凍結蒸留を紹介する。この難関を乗り越えるためにも最高の策となる。
ミルクの凍結蒸留の手順は次の通り。
- ミルクを凍らせる。
- 最後に残る氷を取り出す。
ミルクを凍結蒸留することで、物理的にはミルクの水分量が減少している。化学的にはいくつかの水素結合を分離させている。
素晴らしい質感、フレーバー、そして甘さのあるミルクが出来上がる。
それだけではなく、凍結蒸留したミルクはよりスチームがしやすくなる。新人バリスタにとって最大のメリットとなる。
3つ目が、センサリー
自分自身バリスタとして最も恐怖を感じた時は2つあり、どちらも甲乙つけがたい。
1つは、カッピングテーブルで初めてカップの評価をしているとき、何をしてよいのかさっぱりわからなかったとき。
もう1つは20回、30回とカッピングを繰り返してカップの違いがわかるようになったのに、フレーバーのラインがほぼ空欄になってしまっているとき。
新人バリスタにとってもお客さんにとってもラベル通りの風味を明確に感じ取ることはとても難しい。
しかし、コーヒーがクリーンであればより多くのフレーバーを経験でき、喜びも大きくなる。
これは単に技術のお話ではなく、何百もの新人バリスタが通る人生のお話。
情熱をもってトレーニングをして、これらの葛藤をより良く対処できる方法をセミファイナルの場で示せたのではと願っている。
セミファイナルでのプレゼンは私にとって初めての経験であり、まるで初めてコーヒーのバーに立った時のように恐怖を感じている。
この恐怖は完全に消えることはない。
だから私の生徒にいつも言っていることを私自身にも言わなければならない。
「もし恐怖を感じたのなら、それに立ち向かいなさい。」
私は恐怖と愛の狭間にいるとき、疑うことなく愛を選択する。
WBC 2019 -14位Martha Grill-プレゼンの流れ
- エスプレッソコース
- ミルクビバレッジ
- シグネチャービバレッジ
エスプレッソコース
一番素晴らしいのがフィニッシュ。Dona Nenem農園のテロワールからもたらされるミネラルによるもの。
レシピ
- 粉量: 21 g
- 抽出量: 42 g
ディスクリプター
- ミディアムウェイト
- ベルベットのような質感
- シロップのようで長く続くフィニッシュ
1口目
- ラズベリージャム
- ブラウンシュガー
- ドライクランベリー
2口目
- レッドグレープ
インストラクション
2口目は少し冷ましてから飲むこと
ミルクビバレッジ
レシピ
- 粉量: 21 g
- 抽出量: 42 g
- 凍結蒸留したミルクを使用
ディスクリプター
- プルーン
- レイズン
- 麦芽入りチョコレート
- 極めてクリーミー
シグネチャービバレッジ
コンセプト
- エスプレッソコースで感じたラズベリージャム
- ミルクコースで感じたプルーンと麦芽入りチョコレート
この両方を感じつつ、新たなフレーバーであるポートワインの風味を引き出したドリンクを作成。
エスプレッソ
- 冷凍温度で冷やしたカップにエスプレッソを抽出する。
- エスプレッソコースの2口目で感じることができたフレーバーを想起させる。
材料1:アーモンド 2 g
デザートワインのタンニンを引き出すため、2 gのアーモンド上をエスプレッソを注ぎフィルターでこす。
エスプレッソのラズベリージャムのフレーバーが引き立つ。
材料2:ドライチェリー
プルーンのフレーバーを引き出す。
材料3:凍結蒸留したミルク
麦芽入りチョコレートの風味がダークチョコレートに変化する。
材料4:マスコバド糖
シグネチャービバレッジの工程
- 材料1の上からエスプレッソを注ぐ。
材料2:材料3:材料4を1:1:1の比率で混ぜ合わせて、30分間加熱調理、フィルターでこして冷やしたものを使用。
窒素を充填する。(質感を与える)
ディスクリプター
- ラズベリージャム
- プルーン
- ダークチョコレート
- ポートワイン
- 極めてクリーミー(ミルクコースのように)
- ベルベットのような質感(エスプレッソコースのように)
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ワールドワリスタチャンピオンシップ2019のまとめ
ミルクの凍結濃縮分離を使用したプレゼン
- 優勝韓国代表Jooyeon Jeon|ワールドバリスタチャンピオンシップ2019
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