2019年4月、アメリカのボストンにて開催されたワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)において、16位に入賞したオーストリア代表Junior Vargas Otero(ジュニオール バルガス オテロ)バリスタのプレゼンテーションを紹介します。
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元の出身はペルーのJunior Vargas Oteroバリスタは、オーストリアでGota Coffee(←facebookページです)を経営されています。
WBCは2回目の参加となり、前回はWBC2018で39位でした。オーストリア代表がセミファイナルに残るのは今回が初めての快挙です。
人と人とのつながり、コーヒーと人とのつながり、アロマと視覚的情報のつながりなど、”つながり(コネクション)”を軸においたプレゼンです。
- 心地よい雰囲気を作り、
- 素晴らしいサービスを提供し、
- 新しい発酵プロセスであるタータリックファーメンテーションを取り入れているコーヒーを紹介して
特別なコーヒー体験をするプレゼンです。
WBC 2019 -16位Junior Vargas Otero-プレゼン動画
World Barista Championship セミファイナルの動画で確認できます。
WBC 2019 -16位Junior Vargas Otero-プレゼン概要
使用コーヒー1:コロンビア・ラ ネグリタ・タータリック ファーメンテーション・グリーンティップゲイシャ
- 国:コロンビア
- 地域:トリマ県 (Tolima region)
- 農園:ラ ネグリタ (La Negrita)
- 生産者:マウリシオ・シャタフ(Mauricio Shattah)と彼の家族
- 品種:グリーンティップ・ゲイシャ
- 海抜:1800m
- プロセス:タータリック・ファーメンテーション(酒石酸発酵、tartaric fermentation )
フィンカ ラ ネグリタについて
フィンカ ラ ネグリタのマイクロクライメットはとてもユニークで夜の冷たい温度やたくさんの雨などの気象条件に加えて火山灰土壌の土地といったオリジンが組み合わさり、素晴らしいコーヒーが生産される。
これらの全ての土台になっているのが、生産者マウリシオ一家のコーヒーとの生き方にある。
「コーヒーはたくさんの仕事が必要になるけれども、それだけでなく、たくさんの愛が必要だ」と生産者マウリシオは言っていた。
タータリックファーメンテーションについて
生産者マウリシオは2年間もの間、新しいプロセスの開発に取り組んでいる。
それが、タータリックファーメンテーションである。
タータリックファーメンテーションは、レッドグレープ由来の有機酸である酒石酸を加えて発酵プロセスを行う。
発酵プロセスの間、この酒石酸とコーヒーが相互に作用して、風味を生み出す。
甘さは増加し、酸の品質も向上する。それらが苦みと調和する。
タータリックファーメンテーションは、フィンカ ラ ネグリタのコーヒーの風味特性をそのままに活かしつつ、さらに濃厚になる。
焙煎について
13日前に焙煎したもので、イギリスのオリジンコーヒーのSimonによって焙煎されたもの。
10分10秒の焙煎時間で、22%のデベロップメント。
プレゼンの要旨
「コーヒーは人が人のために作っているものだ」ということを私たちはときどき忘れてしまっている。
“つながり”を見失っているかのように。
特別なコーヒーの体験となるためには、次の3つの重要な要素がある。
- 心地よい雰囲気
- 素晴らしいサービス
- 魅力的なコーヒー
今日はバリスタとして、コーヒーとの”つながり”を作りたいと思う。
そして、特別なコーヒーの経験を提供したい。
センサリーとビジュアルに関するエクササイズ
フタをされた4つのカップがあり、何が入っているのかを感じとってもらう。
1つ目、2つ目、3つ目のカップまでは目をつぶって匂いだけで何が入っているかを予想する。4つ目のカップには答えがは目をつむらずに手に取る。
- 1つ目のカップは、アロマをかろうじて感じるかもしれないけども、何なのかを当てることは難しいレベル
- 2つ目のカップは、よりアロマを感じるようにはなったが、まだ当てることは難しいレベル。この時点でフレーバーを伝えるとすぐにそのカップとつながるというレベル。
- 3つ目のカップは、濃厚なアロマを感じるレベル。何人かの人は記憶を使って何のアロマか理解できるレベル。
- 4つ目のカップは、その答えが入っており、アロマをビジュアル的につなげて理解することができる。
この理解度はそのフレーバーの経験をいつどのくらいしたかによる。
この体験から、アロマとフレーバーの経験はとても繊細なものだとわかる。
実際に目の前に花やフルーツがあることで、カップのセンサリーの記憶を取り戻しやすくなる。
そのため、テーブルセットにはエスプレッソのディスクリプションにある花やフルーツを置いている。
WBC 2019 -16位Junior Vargas Otero-プレゼンの流れ
- エスプレッソコース
- ミルクビバレッジ
- シグネチャービバレッジ
エスプレッソコース
レシピはフィンカ ラ ネグリタのコーヒーが最もタクタイルが心地よくなるポイントに調整。
ディスクリプター
- ミディアムからローウェイト
- シルキーな質感
- 長く続く、甘いフィニッシュ
- ブラックカラント
- マラスキーノチェリー(maraschino cherry)のようなチェリー
- ストロベリージャム
- マジパンを想起させるカラメル化したローストアーモンド
- ジャスミン
- わずかにバニラ
インストラクション
フレーバークラリティを向上させるため、とてもやさしく上から下へ手前から奥に6回かき混ぜること。
ミルクビバレッジ
レシピ
- エスプレッソはエスプレッソコースと同じレシピ
- エスプレッソ:ミルク=1:4の比率で作成
- ミルクは地元オーストリアのもので、3.6%脂質のもの。
- ミルク温度:60℃(甘みが増加してミルクがフルポテンシャルを発揮する温度)
- 10%の薄いフォームにすることで、シルキーな質感を生み出す。
- このコーヒーはミルクとも完璧にマッチし、風味特性を活かつつ調和がとれる。
ディスクリプター
- バタースコット
- タフィー
- ストロベリー
- バニラヨーグルト
- キャラメルのような甘み
- ミディアムボディ
- クリーミーな質感
- 長く続く甘いアフターテイスト
シグネチャービバレッジ
コンセプト
フィンカ ラ ネグリタのエスプレッソに完璧にペアリングする3つの副材料を使用する。
材料はすべて同じコーヒーノキから採取できるもの。
コーヒー生産者のサステイナブルなビジネスを促進するために思いついたシグネチャービバレッジ。
エスプレッソ 80 g
- フィンカ ラ ネグリタのコーヒー豆を使用。
材料1:コールドブリューコーヒー30 g
- フィンカ ラ ネグリタのコーヒー豆を使用。
- 1:10=コーヒー粉:水の比率で8時間浸漬してコールドブリューし、ペーパーフィルターでこしたもの。
- 複雑性をハイライトして、エスプレッソのデリケートなフローラルの風味を引き上げる。
材料2:コールドブリューのコーヒーブロッサムティー 20 g
- フィンカネグリタのコーヒーの花を1時間コールドブリューして、ペーパーフィルターでこす。
- コーヒーブロッサムティーをドライアイスで揮発させてスモークをグラスに注ぐ。エスプレッソで感じる複数の風味をハイライトすることにつながる。
材料3:カスカラシロップ 10 g
- カスカラ500gと水1リットルを1時間沸騰させ、メタルフィルターでこし、再度同じ工程をもう1時間繰り返してシロップにしたもの。
- 複雑なカスカラシロップになる。
- ドリンクの甘みを強調し、ボディが強化される。
シグネチャービバレッジの工程
- ドライアイスの入った容器にコーヒーブロッサムティーを気化させてスモークをグラスに注ぐ。
- エスプレッソと全材料を混ぜる。
- 10秒間ミキサーにかける。
- 最後にドライアイスの入ったテーブルセットにコーヒーブロッサムティーを注ぎ、気化させてそのスモークを溢れさせる。
ディスクリプター
- ジャスミン
- マグノリアフラワー
- ドライプラム
- アプリコット
- ダークチョコレート
- モラセス
- レッドグレープ
- ミディアムボディ
- クリーミーな質感
- 長く続く甘いアフターテイスト
ラ ネグリタ (La Negrita)農園のタータリック ファーメンテーションについて
タータリックファーメンテーションの”タータリック”はtartaric acid、つまり酒石酸からきており、WBC2018で15位のOrigin Coffeeジョシュア・タルロ(Joshua Tarlo)バリスタがこの発酵プロセスをそう命名していました。
タータリックファーメンテーションは現在のところ、コロンビアのラ ネグリタ (La Negrita)農園でしか確認されていません。
基本的にはウォッシュトプロセスであり、その発酵工程で赤ブドウ由来の有機酸である酒石酸を発酵槽に加えて発酵させるというプロセスです。
Merit Coffeeの発行しているニュースレターによると、コロンビアのラ ネグリタ (La Negrita)農園はとてもユニークな取り組みをしています。
生産者であるマウリシオ・シャタフ氏はコーヒーを受注生産で生産している農園を持っています。受注生産とはコーヒーを作ってから売るのではなく、注文が入ってからコーヒーを作るということです。
Merit Coffee専用のロットも同じくタータリックファーメンテーションされたウォッシュトのゲイシャ種のコーヒーを紹介しています。
コーヒーでタータリックというと、コーヒーの風味の印象の表現として”ワインのような”といったブドウ由来の酸の意味で使われます。コーヒーと馴染みのある言葉ではありますが、コーヒーの成分には酒石酸は含まれていません。
タータリックファーメンテーションは酒石酸を添加するため、言い換えれば本来のコーヒーの成分にないものを添加しているという解釈もできそうです。ということは発酵プロセスの際にどこまで添加してよいのか?自然由来の有機酸なら添加してOKなのか?発酵プロセスにおける添加物の許容範囲が今後気になるところです。
タータリックファーメンテーションは、近年革命的に広がりつつあるアナエロビックファーメンテーションとはまた違った方向性の新しい発酵プロセスであり、要注目です。
タータリックファーメンテーション関連記事:ワールドバリスタチャンピオンシップ2018-15位イギリス代表ジョシュア・タルロ
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ワールドワリスタチャンピオンシップ2019のまとめ
カスカラを使ったプレゼンテーション
- 2位ギリシャ代表Michalis Dimitrakopoulos|ワールドバリスタチャンピオンシップ2019
- 7位スウェーデン代表Matt Winton|ワールドバリスタチャンピオンシップ2019
- 8位メキシコ代表Carlos de la Torre|ワールドバリスタチャンピオンシップ2019
- 12位ニュージーランド代表Dove Chen|ワールドバリスタチャンピオンシップ2019
- ワールドバリスタチャンピオンシップ2016-12位 中国代表フー・イン
- ワールドバリスタチャンピオンシップ2014-10位アメリカ代表 ライラ・ガンバリ
- ワールドバリスタチャンピオンシップ2014-6位 エルサルバドル代表ウィリアム・ヘルナンデス
- ワールドバリスタチャンピオンシップ2014-8位 オランダ代表コーエン・ヴァン・スプラング
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