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2019年4月、アメリカのボストンにて開催されたワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)において、3位に入賞したカナダ代表Cole Torode(コール・トロ-ド)バリスタのプレゼンテーションを紹介します。
Rosso Coffee Roastersの共同経営者の一人でありディレクターを務めるCole Torodeバリスタは、昨年に引き続きWBCに出場し、World Barista Championship 2018では初挑戦で5位でした。
関連記事:ワールドバリスタチャンピオンシップ2018-5位カナダ代表コール・トロ-ド
WBC 2019では、農園もプロセスも品種も同じコーヒー豆を使用して、2018年、2019年、2020年の3年間の進化の軌跡を説明しています。2018年の収穫ロットはWBC2018のときと同じコーヒー豆であり、「ヴィンテージコーヒー」という新たなコンセプトを提言しています。
2019年収穫分では2018年のものからどう進化したのかを説明しています。
最後の2020年の未来のコーヒーはシグネチャービバレッジで再現されています。
WBC2018と同様、プレゼン時間中ほぼ喋りっぱなしです。使用コーヒーのラ パルマ イ エル トゥカンのシドラと出会った物語をお話しされています。しかしテーブルセッティングや準備の仕方の工夫により、ほとんどの時間でジャッジの方を向いてお話されているのがとても印象的です。
WBC 2019 -3位Cole Torode-プレゼン概要
使用コーヒー:コロンビア・シドラ・ナチュラル・アナエロビック・ファーメンテーション
- 生産者:セバスチャンとフェリペ・サルディ
- 国:コロンビア
- 地域:クンディナマルカ県トリマ(Cundinamarca, Tolima)
- 農園:ラ・パルマ・イ・エル・トゥカン(La Palma y El Tucan)
- 品種:シドラ(レッドブルボンとティピカの交配種)
- プロセス:ナチュラル・アナエロビック・ファーメンテーション
- 標高:1800 m
- ロット:ミルクコースは#255、エスプレッソは#129、シグネチャービバレッジでは両方を使用。
プレゼンの最初のメッセージ
コーヒーは、「私」に関することではなく、「あなた」に関することでもなく、「その他の人」に関することでもない。コーヒーは「私たち」に関することであり、私たちがつながる方法であり、毎年の進歩のように達成可能な目標に向かって有意義な関係を築くことができる方法である。
今回のプレゼンテーマは、この有意義な関係について。個人的にもコーヒーのプロとしても成長させてくれた関係。
プレゼンの要旨
3つのコーヒーを提供する。
農園もプロセスも品種も同じ。3年間の進化のすべてを示すコーヒーを提供。
ミルクコースでは過去の2018年の収穫分の”ヴィンテージ”のコーヒー豆を使用。
エスプレッソコースでは現在の2019年の新しい収穫分のコーヒー豆を使用。
シグネチャービバレッジでは、未来である2020年の収穫分をイメージ再現したドリンクを作成。
使用コーヒーとの関係の始まり
使用コーヒーとの関係は2016年から始まった。
最初の出会いはジャッジが今経験しているのと同じような始まりだった。
コロンビアのボゴタにあるコーヒーショップでフレンドリーで情熱的なバリスタがシドラを淹れてくれたことから始まった。そのバリスタ、フレディ(Freddy)は私がスペシャルティコーヒー業界にいるということでユニークなものを提供してくれた。その日まで知らなかったがシドラという品種は素晴らしいフレーバーを持っていた。コーヒーのプロとしてのキャリアの中でも本当に記憶に残るコーヒーだった。
シドラ種のコーヒーを楽しんでいると、一人のジェントルマンがコーヒーショップにやってきた。その彼がセバスチャンで、そのシドラ種のコーヒーを生産している農園のメンバーだった。セバスチャンの農園で育ったシドラ種のコーヒーがフレディの元へ渡っていたのだ。
突然、小さいながらもオープンな交流が生まれた。
前日まで聞いたこともなかった品種と出会い、とても情熱的で前向きな考え方をしている生産者やコーヒーのプロたちとつながりをもつよう機会となった。
生産者セバスチャンとフェリペとのコラボレーション
2017年コロンビアへ再度訪れてセバスチャンと話し、彼の働く農園La Parma y El Tucanへ行く機会を得た。そこで彼らのコーヒーがどのようにして生産されているのかを見ることができた。
4つの異なるシドラをカッピングする機会を得た。それらはどれもウォッシュトプロセスのもので、素晴らしい風味特性だった。しかし、個人的にマウスフィールとテクスチャーを欠いているように感じた。これがきっかけで2018年に向けて生産者セバスチャンとフェリペとともに進歩を成し遂げられることができた。
ヴィンテージコーヒー(2018年の収穫分のシドラ)について
2016年のときはウォッシュトのコーヒーで素晴らしい風味特性を感じたが、マウスフィールとテクスチャーを欠いているように感じた。それが2018年生産者セバスチャンとフェリペがナチュラルプロセスのシドラを生産し大きな前進を遂げた。
それが今回ミルクコースで使用する2018年の収穫分のシドラロット#129。
57時間ととても長いアナエロビックファーメンテーションを行われたもので、完璧に熟したコーヒーチェリーにある乳酸菌を活発化させることで全く新しいカップクオリティをもたらした。 新鮮な白ブドウの酸がコーヒーに現れていた。
2018年4月に生産されたコーヒーであり、2018年6月に受けとった。
2018年11月にはもう残り6キロしか残っていない状態となり、私自身とチームRosso Coffee Roastersで少し実験的なことをしてみようと決断した。
我々のしたことは、6キロすべてをガス熱源のドラム焙煎機で焙煎。これがシドラの甘みを引き出した。
それらを100gずつに真空パックにして冷凍保存した。
毎年振り返ることができるような、年々”ヴィンテージ化”するコーヒーを作り出すことを目標にしている。
シドラがどのように進展したか、我々がどのように進歩したかを振り返って確認するために。そしてこのコーヒーを背景とした関係によって未来へのつながりを築くことができた。
“ヴィンテージコーヒー”のコンセプトは、クライアントとの関係とのつながりにおいても大きな変化をもたらした。ヴィンテージのコンセプトはワインの世界ですでに築かれているため、導入するのは簡単なことだった。
2018年のWorld Barista Championshipでも同じコーヒーを使用した。このヴィンテージコーヒーのコンセプトによって、このコーヒーを背景とした関係に私がどれだけ信頼を置いているか、また個人としてもコーヒーのプロとしても1年を通しての進歩をみせることができたと思っている。
2019年の収穫分のシドラについて
セバスチャンとフェリペに会いに再度農園La Parma y El Tucanへ訪問した。
農園を歩くと、彼らが取り組んできた進歩に気付くことができた。
植えられていたコーヒーノキが1列飛ばしに取り除かれていた。
元々はコロンビアの伝統的な生産方法に従っていたがそこから前進することを考え、コーヒーノキの間引きを取り入れた。
その結果コーヒーノキは根をより深くはれるようにした。
そしてより多くの栄養を大地から吸収し、コーヒーチェリーの中の糖がより多くなった。この糖分は発酵過程で変化することが知られている。
アナエロビックファーメンテーションは82時間行われ、2018年の新鮮な白ブドウの風味から涼しい気候のシャルドネのように変化した。
焙煎のアプローチも変更し、流動床式の焙煎機でローストすることにより、ローストプロファイルに一貫性がでて、素晴らしい酸を際立たせることに成功した。
それがエスプレッソコースで提供する2019年1月収穫のロット#255である。
2020年の未来のシドラについて
このコーヒーは、同じシドラ種のコーヒーの2020年、つまり未来の姿をイメージしたドリンク。
シグネチャービバレッジで再現している。
プレゼンの締めのメッセージ
コーヒーは、あなたに関することであり、私に関することであり、その他の人に関することである。私たちがつながり、毎年の進歩のように達成可能な目標にフォーカスして互いを高めあう意義ある関係を築く方法である。
WBC 2019 -3位Cole Torode-プレゼンの流れ
- ミルクビバレッジ
- エスプレッソコース
- シグネチャービバレッジ
ミルクビバレッジ
2018年の収穫分のシドラは、特定ロット#129のもの。
2018年11月に焙煎して冷凍保存した”ヴィンテージコーヒー”。昨年のWBCで使用したコーヒー豆と全く同じロットのコーヒーを使用。
2018年に長いアナエロビックファーメンテーションによって新鮮な白ブドウの酸がコーヒーに現れた。
エスプレッソ:ミルクを1:3で合わさることで、煮込んだアプリコットのようなフレーバーをもたらす。
凍結蒸留したミルクを使用。(凍結蒸留したミルクと通常のミルク半分半分で混ぜたミルク)
カッププロファイル
- 煮込んだアプリコット
- ヌテラ(ヘーゼルナッツ入りのチョコレートスプレッド)
- 溶けたダークチョコレートアイスクリーム
- バニラ味のウエハース
エスプレッソコース
2019年1月収穫のロット#255。
コーヒーノキの育て方、プロセス、焙煎を変えることで、2018年収穫分の白ブドウの風味から涼しい気候のシャルドネへ変化。
レシピ
- 粉量:22 g
- 抽出量:55 g
- 抽出時間:22秒
カッププロファイル
- 涼しい気候のシャルドネ
- ジューシーなネクタリン
- ブラッドオレンジ
- ダークチョコレート
- ミディアムウェイト
- スムース、ベルベット、バターのような質感
- 長く続くココアニブでフィニッシュ
インストラクション
- クレマのみ先に評価。
- フレーバーと複雑性を明確にするため少しクールダウンさせる。
- 5回かき混ぜてから飲むこと。
シグネチャービバレッジ
コンセプト
未来である2020年のシドラがどのように進歩するかイメージを再現したドリンクを作成。
インスピレーションは、同じようなマインドの業界であるワイン業界とカクテル業界から得た。
エスプレッソ 4ショット
- 2018年収穫分#129と2019年収穫分#255のショットを使用。
- 2018年収穫分は、甘くシロッピー。ここが進化を見るベースラインとなる。
- 2019年収穫分は、フレッシュ。
材料1:白ブドウのピューレ 35 g
- テロワールと品種からくる白ブドウの風味から、白ブドウを使用。
- オーブンで5時間、125 ℉ (=51.6667 ℃)でローストし、酸を最小化し、甘みとテクスチャーを引き出す。
- 渋みや苦みを避けるため皮を取り除き、ピューレ状にしたもの。
材料2:プーアル茶 25 g
- 3 gの茶葉で25 g。3煎目を使用。
- お茶の世界にもヴィンテージが存在する。
- 中国雲南省のウーリヤンシャン (無量山) 山脈にある小さな茶園で育ったプーアル茶。13年かけて風味を熟成させたもの。
- アーシーな風味と完熟フルーツの複雑さをもつ。
- ドリンクに合わさると、ストーンフルーツ、よりジューシーなネクタリン、チョコレートの風味を際立たせ、心地よく長く続くタンニン性のカカオニブのフィニッシュをもたらす。
シグネチャービバレッジの工程
- エスプレッソはミルクコースとエスプレッソコースで同時に抽出しておく。
- プーアル茶も2煎目までを別のカップに移し3煎目を準備しておく。
- エスプレッソと材料1を混ぜ合わせる。
- マグネティックスターラーで約2分半混ぜ合わせる。
- 材料2を入れて混ぜ合わせる。
- 球状の氷の入ったシェイカーに移し、軽くシェイクする。
- ダブルストレインする。
- カップに注ぐ。
カッププロファイル
- ジューシーネクタリン
- イエローアップル
- ドライマンゴー
- ダークチョコレート
- 長く心地よいニンニン性のカカオニブフィニッシュ
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