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2017年韓国ソウルにて開催されたワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)にて優勝したイギリス代表デイル・ハリス(Dale Harris)バリスタのプレゼンテーションを紹介します。
デイル・ハリスバリスタは、ハズビーン・コーヒー(Hasbean Coffee)で卸のディレクターをされています。
今回、エルサルバドル・フィンカ・ラス・ブルマス農園のコーヒーを使用しています。
デイル・ハリスバリスタに直接WBC2017のプレゼンテーションについて質問させてもらいました。
「アロマの分析はとても複雑で、分析したサンプルで70種類近くを確認しました。フレーバーとアロマのリンク付けは、Ivon Flament (著)の「Coffee Flavor Chemistry」を解釈して、プレゼンテーションで提供したドリンクに落とし込みました。それらの非常に複雑な情報をプレゼンテーションのために簡素化できたことは大変誇らしいことだと思っています。しかし一方で、簡素化することで分析した化学的な有効性については減少させる結果となりました。今後一緒に働いたメンバーがより良い説明ができることを望んでいます。」
と話してくれました。
ここまで調べるのかと驚嘆するくらい、入念に調査した結果かが伝わる濃厚なプレゼンテーションです。
また、プレゼンテーションの見せ方や、話す順番にも工夫が施されており、見ていて非常に新鮮な気持ちになります。
芳香化合物に着目した化学的なアプローチのプレゼンテーション
コーヒーのオリジン、焙煎、抽出によるフレーバーへの影響がコーヒーを飲んだ時に体験するフレーバーとどのように関連しているのかを説明しています。
アロマ(香り/匂い)は、コーヒーのフレーバーと密接な関係があります。そのアロマを持つ化合物である芳香化合物に着目しています。
デイル・ハリス バリスタは、抽出したエスプレッソのレシピにどの芳香化合物が存在するのかを特定するために、ノッティンガム大学の食品科学学部にてガスクロマトグラフィー質量分析法を用いて研究されました。
フィンカ・ラス・ブルマス農園の同じ品種や異なる品種で焙煎、抽出レシピを変更し、芳香化合物の分析を行いました。
その結果、今回のプレゼンテーションで使用するコーヒーの焙煎、エスプレッソの抽出レシピの鍵となる芳香化合物を特定させることに成功しています。
焙煎、抽出レシピ、そしてエルサルバドル・フィンカ・ラス・ブルマス農園のオリジンに関係する芳香化合物を10種類紹介しています。
プレゼンテーションの見せ方を工夫した効率的で創造的な演出
創造的なテーブルセッティング
デイル・ハリス バリスタは、内容だけではなく、プレゼンテーションの見せ方も大変鮮やかです。
WBC2017からの新ルールでアレンジされたテーブルセッティングでプレゼンテーションを一味違う新鮮なものにしています。
センサリージャッジは、2つのテーブルの間に立ち、それぞれのテーブルで五感すべてをフルに活用して楽しめるような工夫がされています。
効率的なインストラクション
センサリージャッジに、グラフを見て理解する時間を十分に設けたり、芳香化合物をイメージして作られたオブジェで視覚的にも理解しやすいように工夫されています。
そして、オブジェには芳香化合物の香りがつけてあり、実際にその香りを確認することでプレゼンテーションの内容を体感的に理解できるようにしています。
それに加えて、エスプレッソの抽出時にはセンサリージャッジに背を向け、自然とエスプレッソの抽出に専念できる環境をつくることに成功しています。
シグネシャービバレッジで使用するエスプレッソをコールドドリンクにする場合、プレゼンテーション序盤に抽出して、冷やしておく必要があり、その作業はただの作業説明・業務連絡になりがちです。
しかし、ミルクビバレッジとエスプレッソコースで同時にシグネシャービバレッジ用のエスプレッソを抽出することで、不要な説明を除くことができます。
そしてそれにより、センサリージャッジは内容の本旨に集中することができると同時に、デイル・ハリス バリスタにとっても時間的な節約が図られています。
話す順番の工夫
通常、使用するコーヒーの詳細情報(標高、品種、農園名など)は、プレゼンテーションの序盤に説明されます。
しかし、デイル・ハリス バリスタは、最後の最後までその情報を話しません。
芳香化合物から確認できるアロマを十分に理解してもらい、そのアロマとカップにしたときに感じるフレーバーとの関連性を体験してもらった後に、使用するコーヒーの情報を説明しています。
そうすることで、標高、品種、農園名などの情報が、ただ聞き流されるだけの「ノイズ」のような情報ではなくなります。
カップに中にあるコーヒーのフレーバーに結び付けて理解されることで、そのコーヒーの詳細情報に価値が生まれ、スペシャルティコーヒーだからこそ経験できるフレーバーであることを理解することができます。
提供するドリンクの順番
ミルクビバレッジ、エスプレッソコース、シグネシャービバレッジの順で提供しています。
イギリスの某番組でデイル・ハリス バリスタが話していましたが、ミルクビバレッジを最初にもってくることで、ミルクビバレッジが多くのフレーバーを覆うため、その次にエスプレッソコースを持ってくることでそのフレーバーの大きな違いを容易に感じやすくさせる効果もあるようですね。
WBC 2017, 優勝 – デイル・ハリスバリスタのプレゼン概要
使用コーヒー
- 国:エルサルバドル
- 地域:ソンソナテ地区
- 農園:フィンカ・ラス・ブルマス農園
- 品種:SL28
- プロセス:フーリーウォッシュト
- 標高:1850m
- 農園主:フアン・ホセ・アルネスト・メネンデス・アルグエーリョ
フィンカ・ラス・ブルマス農園は、サンタ・アナ火山とイサルコ火山から異なる質の肥沃な火山性土壌を持っている。
他のSL28とは一線を画すユニークなマイクロクライメイトがある。
スローマチュレーション:野生のシェードツリーの下で熟成され、農園内の他のコーヒー豆に比べて15%長い期間をかけて熟成する。
10種類の芳香化合物
(10種類の芳香化合物について、デイル・ハリス バリスタに直接確認することができました。)
ミルクビバレッジ
- 1つ目の芳香化合物 : フルフラール
- 2つ目の芳香化合物 : アセトール
- 3つ目の芳香化合物 : 3-フルアルデヒド
エスプレッソコース
- 4つ目の芳香化合物 :2-メチルプロパノール
- 5つ目の芳香化合物 :2-フランメタノールアセタート
- 6つ目の芳香化合物 :D‐リモネン
- 7つ目の芳香化合物 :2-アセチル-1-ピロール
シグネシャービバレッジ
- 8つ目の芳香化合物 :1-メチル‐1H‐ピロール
- 9つ目の芳香化合物 :2,6-ジメチルピラジン
- 10個目の芳香化合物:2,3-ヘキサンジオン
WBC 2017, 優勝 – デイル・ハリスバリスタのプレゼンの流れ
- ミルクビバレッジ(同時にシグネチャービバレッジ用のエスプレッソを半分抽出する)
- エスプレッソコース(同時にシグネチャービバレッジ用のエスプレッソの残り半分を抽出する)
- シグネチャービバレッジ
ミルクビバレッジ
- 粉量: 20g
- 抽出量:40g
- 抽出収率:21%
- ミルク量:120g
- 脂肪分:2%
- ミルク温度:50度
- ミルクフォームは全体の10%に仕上げ、ライトでシルキーなテクスチャー
- フレーバー:グラノーラ、ブラウンシュガー、ポシェ梨
芳香化合物
- 1つ目の芳香化合物:フルフラール。メイラード反応で生成されたもの。カラメル化されたときのアロマ。ミルクと合わさることで、グラノーラ。
- 2つ目の芳香化合物:アセトール。ブラウンシュガーの甘さ。
- 3つ目の芳香化合物:3-フルアルデヒド。スパイスと優しい甘い香り。ミルクと合わさることで、かすかにポシェ梨のようになる。
エスプレッソコース
レシピ/フレーバー
- 粉量: 20g
- 抽出量:44g
- フレーバー:ザクロ、エチオピアンハニー、カラメル化されたオレンジ
- 酸味:ミディアムからハイ
- 甘味:ミディアム
- ボディ:ミディアム
- 後味:ピノのような心地よいスムースなフィニッシュ
オブジェ/芳香化合物について
- キューブのオブジェ:4つ目の芳香化合物2-メチルプロパノール をイメージしたもの。2-メチルプロパノール は、ドライフルーツのアロマ。エスプレッソのフレーバーのザクロに関係している。
- 球体のオブジェ:5つ目の芳香化合物2-フランメタノールアセタートをイメージしたもの。
- 2-フランメタノールアセタートは、フローラルで甘いアロマ。エスプレッソのフレーバーのエチオピアンハニーに関係している。
- ピラミッド型のオブジェ:6つ目の芳香化合物D‐リモネン と7つ目の芳香化合物2-アセチル-1-ピロールをイメージしたもの。この2つの芳香化合物が一緒になることで、エスプレッソのフレーバーのカラメル化したオレンジをもたらしている。
- ガラスの小瓶:タクタイルをイメージしたもの、小瓶を左右に動かしてスムースに流れていることを確認。エスプレッソのスムースなテクスチャーを表現している。
シグネチャービバレッジ
コンセプト
フィンカ・ラス・ブルマス農園のコーヒーのゆっくりとした熟成を経たチェリーに関係する芳香化合物を3つ紹介。
その3つの芳香化合物を引き立たせ、エスプレッソの新たな一面を見られるドリンクを作成。
材料1:ウーロン茶を浸漬させたエスプレッソ
- 8つ目の芳香化合物:1-メチル‐1H‐ピロール
- ハーブのようなアロマに関係している。
- 88gのエスプレッソに4gの京都産ウーロン茶を浸漬させる。
- ウーロン茶は、テクスチャーに影響を与えることなく、植物性のポジティブな苦みを引き出すために使用。
材料2:乳酸発酵させたカカオニブのソース 5g/ドリンク
- 9つ目の芳香化合物:2,6-ジメチルピラジン
- 甘いカカオのアロマがある。
- 125mlのお湯に30gの乳酸発酵させたカカオニブを入れて加熱
- カカオニブの固形物をこし取る。
- 60gの氷で冷やしながら薄める。
- 材料は、6年前から行ってるサワードウカルチャーのものを3日間発酵させたもの。
- 甘みを加え、上述のエスプレッソとバランスをとる。
材料3:クリームのフレーバーソース 5g/ドリンク
- 10個目の芳香化合物:2,3-ヘキサンジオン
- クリームのフレーバーの鍵となる芳香化合物。
- 250gの新鮮なミルクに80gの6pHのクエン酸液を加える。
- ペーパーフィルターでこして、ミルクと分離させる。
- エスプレッソコースで感じたオレンジのフレーバーが新しいフレーバーへと発展する。
工程
- 材料1から材料3を混ぜ合わせ、アイスロックを容器に加える。(アイスロックは薄まることを避けるため)
- その後二酸化窒素を注入し、シェイクする。
→クリーミーなマウスフィールとなる。
- 斜めに氷が張ってあるグラスに注ぐ。
フレーバー
- 1口目:クリーミーマウスフィール、80%ダークチョコレート
- 2口目:クリームソーダ
- ウーロン茶の苦みでフィニッシュ
- 30秒待って再度飲むと、バランスの取れたオレンジクリームソーダのフレーバーを感じる。
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