2019年4月、アメリカのボストンにて開催されたワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)において、11位に入賞したオーストラリア代表Mathew Lewin(マシュー・ルウィン)バリスタのプレゼンテーションを紹介します。
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Mathew Lewinバリスタは、キャンベラのオナコーヒーでトレーナー、開発、焙煎、バイヤー、品質管理を経験されています。
オーストラリア国内のバリスタチャンピオンシップでは2014年からずっとファイナリストの順位を獲得し続け、今回が初のWBC出場となります。
- 2019 ASCA オーストラリアバリスタチャンピオンシップ 1位
- 2018 ASCA オーストラリアバリスタチャンピオンシップ 4位
- 2017 ASCA オーストラリアバリスタチャンピオンシップ 2位
- 2016 ASCA オーストラリアバリスタチャンピオンシップ 3位
- 2015 ASCA オーストラリアバリスタチャンピオンシップ 5位
- 2014 ASCA オーストラリアバリスタチャンピオンシップ 6位
プレゼンでは、プロジェクトオリジンとオナコーヒーの創設者であるササ・セスティック氏が所有しているホンジュラスのベティ農園のパライネマ種と、さらに高い標高に位置しているラ フエルタ農園のパライネマ種を紹介しています。
また、スペシャルティコーヒー業界の人と一般のコーヒー愛飲者のコーヒー観のズレの問題点を指摘し、普遍的な対策を提案しています。シグネチャードリンクもとてもユニークな手法が使われています。
WBC 2019 -11位Mathew Lewin-プレゼン動画
World Barista Championship セミファイナルの動画で確認できます。
WBC 2019 -11位Mathew Lewin-プレゼン概要
使用コーヒー1:ホンジュラス・ベティ農園・ナチュラル・パライネマ種
- 国:ホンジュラス
- 地域:サンタ・バルバラ県(Santa Barbara)
- 農園:ベティ(Finca Beti)
- オーナー:ササ・セスティック
- 品種:パライネマ種(Parainema)
- プロセス:ナチュラル
- 標高:1500 m
- ミルクコースで使用
1500m地点に位置していて、コーヒーノキが雲に覆われるように囲んでいる。
とても濃い霧、コンスタントに降る雨、平均気温18度という涼しい気候がパライネマ種の成長をゆっくりとすすめる。
それがとても美味しいダークチョコレートの風味をもたらす。
プロセスはナチュラル。
土地柄95%の湿度があり、乾燥させるには湿りすぎているため、より温かくよい低い標高まで移動される。
そこでゆっくりとしたパラボリック法(天日干し)での室内乾燥を行い、30日間でローカカオニブの風味をもたらす。
焙煎は24%のデベロップメントでよりリッチにした。
使用コーヒー2:ホンジュラス・ラ フエルタ農園・ナチュラル・パライネマ種
- 国:ホンジュラス
- 地域:サンタ・バルバラ県(Santa Barbara)
- 農園:ラ フエルタ(Finca La Huerta)
- オーナー:ホルヘ・ランサ(Jorge Lanza)
- 品種:パライネマ種(Parainema)
- 標高:1650m
- エスプレッソコースとシグネチャービバレッジで使用。
ラ フエルタ農園は、ベティ農園より高い位置の1650mにある。
より多くの雲に覆われており、より多くの霧があり、より多くの雨も降る。
平均気温は15℃とさらに低く、パライネマ種さらにゆっくりと10か月かけて成熟する。
このさらに長い成熟期間がより明るいフレーバーをもたらすカギとなっている。
デパルピング後日光の下で乾燥発酵、果糖が多くエスプレッソにより甘さをもたらす。オレンジやブラックカラントといった風味がある。
パライネマ種(Parainema)について
パライネマ種は、Hybrido de Timor(ハイブリッド・デ・ティモール種/ハイブリッド ティモール種)とVilla Sarchi(ビジャサルチ種/ヴィラサルチ種)のハイブリッド品種。
今回紹介される2つのパライネマ種のコーヒーは、どちらもホンジュラスのサンタバルバラのもの。
プレゼンの要旨
スペシャルティコーヒー業界の関係者は外界から閉ざされた狭い世界で生きている。競技会のための記録を塗り替えるような高い価格のコーヒーは、完全にコーヒーの見方を変化させている。
スペシャルティコーヒー業界の関係者は、自分たちのしていることを愛している。しかし、現実的には多くの人々のコーヒー観は我々のコーヒー観についてきていない。
しかし実のところ”日常的なコーヒー”を飲む人たちが必ずしも私たちと同じようにコーヒーを楽しむわけではない。お客さんがコーヒーショップに来た時に、この大会で紹介されるような、スペシャルティコーヒー業界の関係者が愛するクレイジーなコーヒーをおススメして、そう考えるのは早合点だと学んだ。スローダウンすることが必要だと学んだ。
そこでクレイジーなコーヒーをおススメする代わりに、「何が好きですか?」と尋ねるようにしている。
”日常的なコーヒー”を飲む人たちをスペシャルティコーヒーの世界につなげるために、シンプルだが普遍的な方法なのは、彼らが何を好きなのかを学んで、なぜ好きなのかを考え拡げることだ。
コーヒーに精通しているか詳しくないかに関わらず、すべてのコーヒーを人とつなげることができると信じている。
そんな世界は、今のコーヒーの世界よりもさらに美しい世界であり、その役割の一部を担えたらと思っている。
WBC 2019 -11位Mathew Lewin-プレゼンの流れ
- ミルクビバレッジ
- シグネチャービバレッジ
- エスプレッソコース
ミルクビバレッジ
私の働くカフェには、多くの”日常的なコーヒー”を飲む人たちが注文するものがある。ダークチョコレートの美しい風味があるミルクベースのコーヒードリンクである。
”日常的なコーヒー”を飲む人たちを私たちのスペシャルティコーヒーの世界へとつなげるためには、ミルクベースのコーヒードリンクが最も良いスタート地点となる。私の目的は今まで飲んだものの中で最高のものを提供することだ。
このドリンクは最もワクワクするドリンクの一つ。理由は素晴らしいダークチョコレートの風味があるから。
レシピ
- 粉量: 22 g
- 抽出量: 36 g
- ミルク量:75 g
- 全乳を使用。
→濃厚なダークチョコレートとのバランスを整えるため。
ディスクリプター
- 78%ベネズエラ産ダークチョコレート
- ペルー産ローカカオニブ
インストラクション
目の前に置かれているサンプルの臭いを嗅ぐよう促す。
シグネチャービバレッジ
コンセプト
コーヒーのダークでリッチな風味と同じくらい好きなのが、コーヒーの持つ明るいフルーツの風味。
しかし、たくさんの”日常的なコーヒー”を飲む人たちにとってはまだまだこの明るい風味を感じ取れることを気づいていない。
そこでミルクコースで感じたようなダークな風味と明るいフルーツの風味のギャップの架け橋となるようなシグネチャービバレッジを作成する。
ホンジュラスのラ フエルタ農園のコーヒーを使用してダークな風味と明るいフルーツの風味の両方を体験できるドリンク。
最初に、ミルクコースで感じたダークサイドの風味を感じてもらう。
エスプレッソ
- ホンジュラス・ラ フエルタ農園・ナチュラル・パライネマ種を使用。
- 驚くようなシトラスの風味を持っている。
- ダークサイドの風味をもたらすため、低い温度で焙煎を開始し、22%のデベロップメントでリッチなエスプレッソになるように焙煎。
材料1:ブラッケンドチェスナットシロップ 7 ml
- ダークな風味を掘り下げるための副材料。
- チェスナット(栗)をスロークッキング技術である「ブラックニング(Blackening)」した場合にのみチェスナットがエスプレッソからダークなフルーツの風味を引き出すことが分かった。
- 60℃で3週間低温調理する。
- 時間が経つにつれより黒くなり、フレーバーはより深くなる。
- 3週間後、同量の水をブレンドし、ろ過する。
- エスプレッソのブラックカラントと合わさることでナツメヤシの風味とシロップのようなマウスフィールをもたらす。
材料2:ココナッツシロップ 9 ml
- 明るい風味を掘り下げるための副材料。
- ココナッツを回転させながら加熱できるオーブンを使用し、100℃で3時間加熱調理する。
- ココナッツの中に含まれる水分が優しく、最小限に揮発する。液体がよりフレッシュになり、風味特徴をより発達させることができる。
材料3:ラ フエルタ・パライネマ種のコーヒーアイス 1つ/グラス
- ラ フエルタ農園パライネマ種のコーヒーの持つ明るいシトラスの風味を生かすため、1:10=コーヒー:水で24時間コールドブリューし、冷やして氷にしたもの。
- 水はシトラスの風味が活きる軟水を使用。
- ドリンクを冷やす目的と、エスプレッソの持つオレンジの風味と合わさることで素晴らしいオレンジジュースの風味をもたらす。
シグネチャービバレッジの工程
- 材料1,2とエスプレッソを混ぜ合わせ、厚みのある縁のカップに注ぐ。
- 別に薄い縁のグラスを用意し材料3を入れて、2口目のために厚みのある縁のカップとともに提供。
ディスクリプター
全く異なる2段階の風味になる。
- 1口目:ナツメヤシ、シロップのようなマウスフィール
- 2口目:オレンジジュース、リフレッシングな明るい質感
1口目は”日常的なコーヒー”を飲む人たちのため。
温かい温度のドリンクで、厚みのある縁の温かいカップで提供することで、ナツメヤシとシロップのようなマウスフィールを感じる。温かく、親しみやすいドリンク。
2口目は、”日常的なコーヒー”を飲む人たちとたくさんのフルーツを感じるコーヒーをつなぎ合わせるため。
冷たい温度のドリンクで、薄い縁のグラスで提供することでオレンジジュースやリフレッシングな明るい質感を感じる。
インストラクション
- 1口目は少なめに飲むこと。
- 1口目の後、コーヒーアイスの入ったワイングラスに移す。
- 2口目を飲む前に10秒間スワリングすること。
エスプレッソコース
私がスペシャルティコーヒーの世界にどっぷりとハマるきっかけがエスプレッソ。
私の世界に案内する。ただし私の見方でコーヒーを見てほしいのではなく、ともに同じ方法でコーヒーをみてほしい。
ラ フエルタ農園のコーヒーは、美しいシトラスの風味があり、そのためこのコーヒーをとても気に入っている。
エスプレッソはバランスが取れている必要がある。
以下がベストバランスになるレシピである。
レシピ
- 粉量: 21 g
- 抽出量: 38 g
ディスクリプター
1口目
- ミディアムウェイト
- ジューシー、ベルベットのようなマウスフィール
- ミディアム程度の長さのフィニッシュ
2口目
- オレンジ
- ブラックカラント
インストラクション
- 2口飲むこと。
- 少し冷ましてから飲むこと。
- 1口目の前に5回スプーンで混ぜること。
- 2口目の前にフレーバーを開かせるため、ワイングラスのようにスワリングを5回して酸素を導入すること。
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