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2019年4月、アメリカのボストンにて開催されたワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)において、8位に入賞したメキシコ代表Carlos De La Torre (カルロス・デ・ラ・トーレ)バリスタのプレゼンテーションを紹介します。
Carlos De La Torreバリスタは、Café con Jiribilla(←インスタグラムページです)で働いています。
メキシコ代表がセミファイナルに出場するのは2012年以来の快挙となります。
WBCの参加は今回初めてですが、
- World Cup Tasters Championship, Vienna 2012
- World Brewers Cup, Gothenburg 2015
- World Brewers Cup, Dublin 2016
など、世界大会へ数多く出場された経験をお持ちです。
今回のプレゼンでは、高い水分活性をもつコーヒー豆を使用しており、コーヒー生産国という地の利を完璧に活かしたプレゼンテーションをしています。ついつい生産国でコーヒーが飲みたくなるようなプレゼン内容です。
補足情報として水分活性とコーヒーの関係について、素晴らしい動画を見つけたので水分活性の説明とともに最後に紹介しています。
WBC 2019 -8位Carlos de la Torre-プレゼン動画
World Barista Championship セミファイナルの動画で確認できます。
WBC 2019 -8位Carlos de la Torre-プレゼン概要
使用コーヒー:メキシコ・ラホヤ・ナチュラル アナエロビックファーメンテーション・レッドブルボン
- 国:メキシコ
- 地域:ベラクルス州ヒコ(Xico, Veracruz)
- マイクロミル:ラホヤ(La Joya)
- オーナー:サミュエル・ロンソン(Samuel Ronzón)
- 品種:レッドブルボン
- プロセス:ナチュラル アナエロビックファーメンテーション
- スクリーンサイズ17
- エイジング:12日
- 焙煎:メキシコシティ
- 12日前に焙煎したもの(ガス抜きと全てのフレーバーを発達させるため)
アナエロビックファーメンテーションでフルーツの風味を押し上げたマイクロロット。
33日間かけたスロードライプロセスで水分含量を14%にする。
その後水分活性を安定化させるため、さらに30日間保管する。
プレゼンの要旨
私の心音と血圧から、私が今幸せであることがわかるでしょう。友人のSamuel Ronzón氏を訪問したときに学んだことだがコーヒーにも同じように、バイタルサインがある。
コーヒー豆の水分含量や水分活性(Aw)を測定すれば、そのコーヒーが新鮮か古くなっているかがわかる。
その点にインスパイアされ、収穫されたばかりの新鮮なコーヒーがいかに驚くほどのフレーバーをもっているかを紹介する。
水分活性について
メキシコ・ラホヤ・アナエロビックファーメンテーション・レッドブルボンの最初のサンプルを試したときに爆発的なフレーバーを感じたため、その理由をオーナーのSamuel Ronzónに尋ねたところ、このコーヒーの水分活性が極めて高いことを教えてくれた。
そこで複数の水分活性を持つコーヒーをカッピングして比較する実験をした。そこでわかったことは次の通りである。
水分活性が0.5(aw)に近いとローストしたピーナッツのようなカラメル化されたフレーバーが感じられるのに対し、0.7(aw)に近いとココナッツやパイナップルのようなフルーツフレーバーを感じることがわかった。
このマイクロロットは、水分活性が0.7(aw)であり、よりフルーツフレーバーを感じることができる。
輸出・販売するために生豆の状態で1年間保管することが当たり前になっている。しかしそれは本来コーヒー豆が持つフレーバーの分布範囲を制限してしまうことにつながる。
水分活性が高くかつ水分含量の高いコーヒー豆が手に入り、かつオリジン内ですぐに焙煎することで、今までに体験したことのないフレーバーを開放することができる。
これがコーヒー生産国にいることを幸運に思う理由であり、ただ最高のコーヒーがあるというだけでなく、コーヒーは季節商品であり、生鮮食品であると理解することにつながっている。
焙煎について
高い水分含量のコーヒー豆は、焙煎時により熱を容易に拡散させることができ、効率性がより良くなる。これはカップに透明感をもたらすだけでなく、より高い溶解性を持つので抽出にも良い効果がある。
スクリーンサイズ17で揃えることで、より均一な焙煎を可能にしている。
コーヒーのサンプルからわかるように(ジャッジの前に生豆のサンプルがある)、メキシコ・ラホヤ・アナエロビックファーメンテーション・レッドブルボンは、緑色のコーヒー生豆と黄みがかったコーヒー生豆がある。
まず2種類に分ける。そして緑色のコーヒー生豆は1分20秒のデベロップメントタイムでカップに力強さを与え、黄みがかったコーヒー生豆は1分13秒のデベロップメントタイムで複雑性を与えた。
最後にそれらをブレンドした。
12日前に地元メキシコシティで焙煎することで、ガス抜きと適切に全てのフレーバーを発達させた。
WBC 2019 -8位Carlos de la Torre-プレゼンの流れ
- ミルクビバレッジ
- エスプレッソコース
- シグネチャービバレッジ
ミルクビバレッジ
レシピ
- 粉量: 18 g
- 抽出量: 40 g
- ミルク量:120 ml
- ミルク温度:55℃
→甘みとフルーツ感が強調される
- ミルクはメキシコのものを使用。
ディスクリプター
- クリーミー
- スムースな質感
- 1口目:ピーチヨーグルト
- 2口目:甘いクリームブリュレ
- ストロベリーミルクシェイクのアフターテイスト
エスプレッソコース
レシピ
- 粉量: 18 g
- 抽出量: 36 g
このマイクロロットは、水分活性0.7(aw)でよりフルーツを感じる。
具体的には次のようになる。
ディスクリプター
- アロマ:スロトベリー
- 1口目:オレンジジャム、マスコバド糖(muscovado sugar)
- 2口目:甘いレッドベルモット(red vermouth)
- 長く心地よいアフターテイスト
- 加熱調理したパイナップルのようなアフターテイスト(cooked pinapple)
- 甘み:ミディアムハイ
- 酸:ミディアム
- 苦み:ミディアム
- ジューシー
- シルキー
シグネチャービバレッジ
コンセプト
Carlos De La Torreバリスタ自身のオリジナルドリンク “ラ チヴィタ(La Chivita)”をボストン流にアレンジしたドリンクを作成。
La Chivitaは使用コーヒーのアナエロビック・ファーメンテーションのコーヒーチェリーのアロマにインスパイアされてできたドリンク。
本来ならメキシコベラクルス州ヒコのオレンジをメインの副材料として使用するコーヒードリンクなのだが、アメリカへのフルーツの持ち込みは難しかったため、海外で作れるようにアレンジできないかと考えた。例えばモヒートカクテルは世界中のどこでも飲めるが、その土地ごとのレモンや砂糖を使ってフレーバーを表現している。そこからヒントを得てボストン流にアレンジしたLa Chivitaを作成。
エスプレッソ
- 粉量: 18 g
- 抽出量: 45 g
- ロングショットでフレーバーを開かせる。
材料1:オレンジジュースリダクション 10 ml
- オレンジジュースをオーブンで50%になるまで煮込んだもの。
- 酸のバランスをとるため。
材料2:発酵させたオレンジピール 15 ml
- 50 gのオレンジピール、20 gの白砂糖を24時間バキュームシールして、その後5日間発酵させたもの。
- La Chivitaに生き生きとした酸とアロマをもたらす。
材料3:焙煎したカスカラインフュージョンのアイスキューブ 60 g
- カスカラを10%重量が減少するように10分間焙煎する。
- そのカスカラ20 gを80 mlの冷たい水に2分間浸漬する。
- そのインフュージョンを凍らせてアイスにしたもの。
- 甘みと苦みが加わる。
シグネチャービバレッジの工程
- 氷の入ったボストンシェイカーにエスプレッソと材料を混ぜ合わせる。
- ボストンシェイクし、ストレイン(ろ過)。
- ワイングラスに注いで提供。
ディスクリプター
- アロマ:マンゴー、オレンジブロッサム
- 1口目:タマリンド、タンジェリン
- 2口目:カラメル化したパイナップル
- 爽快感のあるグリーンティのフィニッシュ
- 芳醇でジューシー
水分活性とコーヒーの関係について
水分活性とは
一般的に水分活性という言葉が使われる場合の水分活性(water activity)とは簡単にいうと、食品の腐りやすさを表す指標です。食品の保存性を考える際に主に使われます。
水分活性は、0~1の間で示されます。完全に乾燥した食品は0(aw)で、純水は1(aw)になります。
水分活性が高ければ、微生物の育成が盛んになり食品が腐りやすくなります。逆に水分活性が低ければ、微生物の活動を抑制することにつながります。食品によって水分活性の適切なレベルは異なります。
水分活性がコーヒーに関係する場面
コーヒーの場合も水分活性は貯蔵性の議論の際に使われます。ただしコーヒーの場合はコーヒー生豆の保存性だけでなく、輸出入の際や、焙煎の時にも水分活性は重要な情報となります。
水分活性を理解すると、カビが生える危険性のあるコーヒー生豆がわかったり、水分活性を見て使用するコーヒー豆袋の順番を決定したりすることができます。
Carlos De La Torreバリスタが言及していたように焙煎時にも水分活性が影響しますし、輸入したコーヒーが現地で飲んだときと風味が異なる理由がわかるようになります。
そのためグリーンコーヒーバイヤーはもちろん、コーヒーの焙煎業者も、それを消費者に説明するバリスタも知っておくべき知識となります。
コーヒーと水分活性について、Swiss Water Decaffeinated CoffeeのディレクターであるMike Strumpfさんが講義している素晴らしい動画を発見したので紹介します。
こちらの動画では水分活性について、コーヒーとどのような関係があり、コーヒー生豆の輸入時、焙煎時にどのような課題があるのかを説明しています。
Mike Strumpfさんは、コーヒーの水分活性とはコーヒー豆の物質の中にある水のエネルギーの測定と説明しています。コーヒー豆の中にある水がコーヒー豆内にどれだけ留まっているか(もしくは出ていくか)を測定した値が水分活性となります。
水分活性の測定方法
密閉容器にコーヒー豆をいれてその中の蒸気の圧力を測定します。つまり、蒸気圧(vapor pressure)を測定します。
実際は水分活性測定器を使用するので計算式は知る必要はないかもしれませんが、「圧力」が重要なんだなと理解できるので、Mike Strumpfさんが説明している略式の計算式を紹介します。
コーヒー豆の水分活性(aw)=コーヒー豆から出てくる水の蒸気圧÷純水の蒸気圧
となります。
低い水分活性は、コーヒー豆の成分と結合している水(結合水)の量が多いということです。
逆に高い水分活性だと、コーヒー豆の成分と結合していない自由に動く水(自由水)の量が多いということです。
圧力が関係していると理解できると、次のことがわかるようになります。
現地で飲むコーヒーと輸入した後に飲むコーヒーのフレーバーが違う理由
グリーンバイヤーの方と話をすると、「現地でチェックしたときはこんな風味じゃなかった」というような話を聞くことがあります。
上の動画でコーヒーの輸送時に関係する圧力は、簡単な式にすると「圧力=ガス量×気温」と説明されています。
輸送用コンテナでガス量が一定と考えると、輸送期間の間の温度の上下がそのまま圧力の変化を表すことになります。コーヒーの風味はとてもデリケートで気温や湿度が少し変化しただけでも劣化してしまうことが知られています。
コーヒー生豆の輸送を考えると、コーヒー生豆の自由水がよく動く高い水分活性のものだと、風味が劣化しやすくなるということになります。そして、低い水分活性だとコーヒーの風味が安定しやすいということになります。
メイラード反応と水分活性の関係について
コーヒー豆の焙煎時に起こるメイラード反応は、フレーバーの熟成に大きく寄与していることが知られています。
メイラード反応に関して、水分活性は高い方が良いという結果が上記動画で報告されています。具体的には、0.6(aw)~0.7(aw)でメイラード反応の増加がみられたと報告があります。
メイラード反応と水分活性の関係については、Chris Kornman氏が驚くほど詳細な情報を提供していますので、気になる方はThe Relationship Between Water Activity and the Maillard Reaction in Roastingを確認ください。
コーヒーにとって水分活性のベストな値について
引用:Coffee Water Activity and Meters(上の動画)
結論からいうと、現状すべてにおいて最良となる水分活性の値はないと言われています。
どういうことかというと次の通りです。
生豆の一般的な水分活性は0.6(aw)で、コンテナ内が湿気で充満するコーヒー生豆の水分活性は、0.75~0.85(aw)という調査結果が上の図が示しています。
0.78(aw)を越えると微生物の活動が盛んになり、マイコトキシン(Mycotoxins,カビ毒,真菌毒)やオクラトキシン(ochratoxin)が発生してしまい、カビが生えたりカビが見えなくても毒素を持ったコーヒー豆になってしまいます。コーヒー生豆から自由水が出たり戻ったりする→コンテナ内が湿る→豆袋が湿ってカビが生える→コーヒー豆にカビが生える という流れです。
0.6(aw)未満だとよりコーヒーの風味が安定しやすくなる反面、焙煎時に起こるメイラード反応は鈍くなり、コーヒー豆の持つフレーバーを活かしきることができなくなります。
あっち立てればこっち立たずのトレードオフの関係にあります。
0.6(aw)だとコーヒーの安定性もメイラード反応の点でもまあまあ良いが、すべてにおいてベストというわけではない、とMike Strumpfさんは説明しています。明確な対応策がないのが現状であり、水分活性の問題は今後の課題という感じです。
Carlos De La Torreバリスタが高い水分活性のコーヒー豆を使用し、生産国で焙煎した地の利を活かしたプレゼンをしていました。輸送のリスクを考えず収穫したばかりのとてもフレッシュなコーヒー豆が手に入るからこそできることです。ただ考え方を変えると、水分活性に関して今後科学の進歩があれば日本にいる私たちにもより美味しいコーヒーが入ってくるポテンシャルがあるということであり、一人の消費者として水分活性の科学の進歩は今後楽しみの一つになりそうです。
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