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2019年4月、アメリカのボストンにて開催されたワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)において、4位に入賞したインドネシア代表Mikael Jasin(ミカエル・ジャシン)バリスタのプレゼンテーションを紹介します。
Mikael Jasinバリスタは、WBC2017で12位に入賞したYOSHUA TANUバリスタが経営しているコモン・グランズ・セント・アリ(Common Grounds ST. ALi)にて、マーケティング兼品質管理担当として働いています。
- 2015 Australian Coffee in Good Spirits – 2位
- 2016 Australian Coffee in Good Spirits – 2位
- 2018 Indonesian Barista Championship – 2位
- 2019 Indonesian Barista Championship – 優勝
とBarista Championshipだけでなく、Coffee in Good Spiritsでも優秀な成績を収めています。
今回のWBC2019では、コーヒーが特定の風味を持つように発酵させる方法を「Purpose-driven fermentation」とネーミングして、カーボニックマセレーションに特化したプレゼンテーションを行っています。
3種類のコーヒー豆を使用しており、シグネシャービバレッジではMikael Jasinバリスタの出身国であるインドネシア初のカーボニックマセレーションを適用したコーヒーを紹介しています。
WBC 2019 -4位Mikael Jasin-プレゼン概要
3種類のコーヒー豆を使用。
使用コーヒー1:パナマ・フィンカデボラ・カーボニックマセレーション・グリーンティップゲイシャ
- 国:パナマ
- 地域:チリキ県
- 農園:フィンカ デボラ (Finca Debora)
- 生産者:ジェイミソン サベージ
- 品種:グリーンティップゲイシャ
- プロセス:カーボニックマセレーション
- 標高:1900 m
- エスプレッソコースで使用
使用コーヒー2:エチオピア・グジ・ホールチェリー・カーボニック・マセレーション・エアルーム
- 管理者:プロジェクト オリジン
- 国:エチオピア
- 地域:グジ
- 品種:エアルーム
- プロセス:ホールチェリー・カーボニック・マセレーション
- 標高:1800 m
- ミルクコースで使用
使用コーヒー3:インドネシア・ワハナ・カーボニックマセレーション・ロングベリー
- 国:インドネシア
- 地域:スマトラ島 北スマトラ州
- 農園:ワハナ
- 品種:ロングベリー
- プロセス:カーボニック・マセレーション
- シグネチャービバレッジで使用
プレゼンの要旨
従来はオリジン、プロセスなどからフレーバーが作られると考えていた。そして、焙煎、抽出を通してフレーバーをより印象的なものにできると考えていた。
しかしここ数年で、特にコーヒーのプロセスについて大きなイノベーションが起きた。
そのイノベーションで着目したのが発酵プロセス。コーヒーに特定の風味を持つように発酵させる方法を私は「Purpose-driven fermentation(目的意識を持った発酵)」と呼んでいる。
いろんなコーヒーの発酵技術を学んだ。そしてコントロールがしやすく一貫性の高い発酵方法を見つけた。それが、カーボニックマセレーション。
このカーボニックマセレーションが、今回紹介するコーヒーのプロセスにおいての原型となり、新しくかつより目的に沿った方向へ導くことが可能になる。
セクション1:伝統的なカーボニックマセレーションについて
典型的なカーボニックマセレーションは次の流れとなる。
- コーヒーチェリーを摘み取り、パルピングする。
- そして、コーヒー豆をステンレススチール製のタンクに入れる。
- 炭酸ガスで圧力をかけて密閉する。
そうすると、炭酸ガスの圧力によって酸素が押し出され、タンク内は完全にアナエロビック(嫌気性)環境になる。
これは2つのメリットをもたらす。
- 二酸化炭素との接触時間を延長することで、生き生きとした酸をもたらす。
- アナエロビック環境は、コーヒーのストラクチャを引上げ、フレーバーをより明確にする。
セクション2:エスプレッソ用の発酵プロセスについて
エスプレッソの目標は、バランスがとれていて、生き生きとした酸があり、透明感のあるカップであること。
この目標に向けた発酵プロセスを行った。
エスプレッソ用は、使用コーヒー1のパナマ・フィンカデボラ・カーボニックマセレーション・グリーンティップゲイシャを使用。
コーヒーチェリーをパルピング後10%のミューシラージを残す。
→よりよいタクタイルをもたらす。
次のステップでは、従来のカーボニックマセレーション(CM)を行う。
→コーヒーに生き生きとした酸をもたらす。
しかし、この方法ではタンク内に甘みが少し不足するため、コーヒーも甘みが少し足りない状態となる。
そこで、次のステップのドライイングプロセスを工夫。ジェイミソンは3層構造のベッドを開発した。
そのおかげでゆっくりとした乾燥と発酵ゆるやかに進行させることが可能になった。最上段のコーヒー豆は直射日光が当たる。下の2段目と3段目はより日陰になる部分が多くなり、よりゆっくりとした乾燥となり、ミューシラージの分解もよりゆっくり進む。その結果、複雑な甘みを発達させ、カーボニックマセレーションがもたらす生き生きとした酸とバランスよくマッチする。
焙煎について
ポテンシャルを引き出すため、20%のデヴェロップメントを設け、8分53秒でハゼに至るとてもゆっくりとした焙煎を行った。
セクション3:ミルクビバレッジ用の発酵プロセスについて
ミルクビバレッジの目標は、透明感とバランスの良いドリンクであること。
この目標に向けた発酵プロセスを行った。
ミルクビバレッジ用の使用コーヒー2のエチオピア・グジ・ホールチェリー・カーボニック・マセレーション・エアルームを使用。
摘み取ったホールチェリーのままカーボニックマセレーションを行うことで、フレーバーがより濃厚に、明確になる。
伝統的なカーボニックマセレーションにホールチェリーを合わせることで、フルーツが全面に出る。
そしてドライイングプロセスはナチュラルでアフリカンベッドに25日間乾燥させる。
ミルクととても相性が良い。
セクション4:自国インドネシアでカーボニックマセレーションを応用
Purpose-driven fermentationのコーヒー豆を使用してコーヒーへの品質とフレーバーへのインパクトを目の当たりにするうちに、次のように考えるようになった。
Purpose-driven fermentationがコーヒーの美しさを引き上げるのであれば、パナマやエチオピアだけでなく、自国であるインドネシアでもでも同じくらい興味深いコーヒーが作れるのではないか?
そこでジェイミソンとともに、プロジェクトを始動した。
ジェイミソンにパナマから最も素晴らしいコーヒーの産地である北スマトラのワハナエステートに来てもらった。
インドネシアではカーボニックマセレーションのコーヒーは初めての試み。
フィンカ デボラのジェイミソン サベージ氏を北スマトラ州ワハナエステートへ招いてプロジェクトを進めた。
元のハワナエステートのコーヒーは、クリーミーなマウスフィールでスパイシーチョコレートの風味。しかし、まだまだ改善の余地があるため、カーボニックマセレーションを実施した。
伝統的なカーボニックマセレーションを適用した結果、インドネシアでは発酵の結果が違うものとなった。
インドネシアは気候が温かく、より湿気があるためと考え、従来のカーボニックマセレーションに変更を加えた。
発酵のためのステンレス製タンクをアイスバスの中にいれることでタンク内温度を30℃で維持できるようにした。その結果タンク内の発酵を100時間まで延長することができた。これが興味深いフレーバー変化をもたらした。
チョコレートの風味をより感じるようになった。そしてダークチェリーの新たなフレーバーをもたらした。
その反面長いコンタクトタイムの影響で生き生きとした酸が少し欠いているように感じた。
今回のシグネチャービバレッジの目標は、コーヒーの持つチョコレートとダークチェリーのフレーバーを維持しつつ、生き生きとした酸、甘さ、タクタイルを引き上げること。
WBC 2019 -4位Mikael Jasin-プレゼンの流れ
- エスプレッソコース
- ミルクビバレッジ
- シグネチャービバレッジ
エスプレッソコース
レシピ
- パナマ・フィンカデボラ・カーボニックマセレーション・グリーンティップゲイシャを使用
- 粉量: 19.5 g
- 抽出量: 42 g
カッププロファイル
- ローズのアロマ
- オレンジの酸
- キャンディのような甘さ
- ミディアムボディ
- シルキーな質感
- アールグレイティーでフィニッシュ
インストラクション
- 少し冷ましてから飲むこと
- フレーバーを引き出すため10回かき混ぜること
- 少なくとも3回、大きく飲むこと
ミルクビバレッジ
ミルクはインドネシアの乳牛を選択。彼らは特定の4種類の草と緑のみを食することで糖質のレベルが増加し、甘みの高いミルクを作る。
そのミルクを凍結蒸留し、50%の水分を取り除いた。
レシピ
- エチオピア・グジ・ホールチェリー・カーボニック・マセレーション・エアルームを使用
- 粉量: 21 g
- 抽出量: 24 g
ショートにすることで使用ミルクと相性がとてもよくなる。
カッププロファイル
- アイリッシュクリーム
- バニラ
- ストロベリーアイスクリーム
インストラクション
- 少し冷ましてから飲むこと
- フレーバーを調和させるため、時計回りに5回かき混ぜること
シグネチャービバレッジ
コンセプト
自国インドネシアで初のカーボニックマセレーションのコーヒーを生産。そのコーヒーの持つチョコレートとダークチェリーのフレーバーを活かしつつ、生き生きとした酸、甘さ、タクタイルを引き上げるドリンクを作成。
エスプレッソ 4ショット
- インドネシア・ワハナ・カーボニックマセレーション・ロングベリーを使用
- 粉量: 22 g
- 抽出量: 42 g
材料1:ウォーターケフィア 70 mL
- バラのつぼみ 10%
- 砂糖 10%
- 日本製のケフィア 10%
- 水 70%
上記の割合で合わせて48時間発酵させたもの。
→生き生きとした酸をもたらす
材料2:サワー種で発酵させたストロベリーリダクション 50 mL
- ストロベリー500 g
- 砂糖200 g
- 水で薄めたササワードウ(サワー種)200 g
上記を合わせて80℃のお湯に2時間つける。
そのジュースを室温で2日間発酵させたもの。
→甘みをもたらす。
材料3:カーボニックマセレーションを行ったプラムリダクション 20 mL
ブラックプラム200 gをタンクにいれて100時間カーボニックマセレーションしたもの。
→タクタイルを引き上げる
シグネチャービバレッジの工程
- 氷の入ったジャーにエスプレッソを流し込む。
- 全ての材料を加える。
- バースプーンでステアする。
→かすかに冷たいドリンク。
カッププロファイル
- ローズのアロマ
- ダークチェリー
- ダークチョコレートトリュフ
インストラクション
- 3口飲むこと。
- 1口ごとにスワリングして、30秒の間をあけること。
→興味深いフレーバーの変化を感じることができるから。
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