2019年4月、アメリカのボストンにて開催されたワールドバリスタチャンピオンシップ(WBC)において、15位に入賞したフィリピン代表Michael Harris(マイケル・ハリス)バリスタのプレゼンテーションを紹介します。
スポンサーリンク
今回がWBC初めての挑戦です。フィリピン代表がWBCのセミファイナルに勝ち残るのはWBCの歴史上初めての快挙となります。
見た目からしてエネルギーレベルの高さが現れているMichael Harrisバリスタは、社会起業家(Social Entrepreneur)であり、Henry and Sonsの社長兼CEOを務めていて、Foundation of Sustainable Coffee Excellenceという持続可能な農業を通してフィリピンを世界のコーヒースポットにするためのNGO団体の長でもあります。
社会起業家(social entrepreneur)の一面が全面に押し出されたプレゼンテーションのため、補足情報としてMichael Harrisバリスタがどのようなことをしてきたのかというバックグラウンドを最下部で紹介しています。
プレゼンの内容としては、「完全にサステイナブルなコーヒーのエコノミーを創り出すこと」を目的に、マーケティングの勉強をしていると必ず出てくる用語「イノベーター理論」に基づいて、各コースを振り分けて説明しています。
今回のプレゼンで与えた印象度や、実際にネット上で確認できる情報を見ても、Michael Harrisバリスタのマーケティング能力が秀逸であることがわかり、その理論に基づいたプレゼンは大変参考になります。言語化できないノンバーバルなメッセージを含めて参考になるため、ぜひWBCの動画も見てみてはいかがでしょうか。
WBC 2019 -15位Michael Harris-プレゼン動画
World Barista Championship セミファイナルの動画で確認できます。
WBC 2019 -15位Michael Harris-プレゼン概要
使用コーヒー1:エチオピア・ゲシャ・ビレッジオマブロック・ゲシャ1931・Lot No.:79
- 国:エチオピア
- 農園:ゲシャ・ビレッジ・オマブロック
- 品種:ゲシャ1931
- プロセス:ナチュラル
- Lot No.:79
- エスプレッソコースとシグネチャービバレッジで使用。
ユニークなマイクロクライメットが明確なオレンジのフレーバーをもたらしているのが特徴的。
18%のデベロップメントで甘みとクリーミーな質感を引き出している。
使用コーヒー2:エチオピア・グジ・メシナビレッジ・ウォッシュト・カーボニック・マセレーション
- 国:エチオピア
- 地域:グジ・メシナビレッジ (Guji, Mesina)
- 品種:エアルーム
- 標高:2300 m
- プロセス:ウォッシュト・カーボニック・マセレーション
- ミルクコースで使用。
カーボニックマセレーションにより、酸素フリーの環境を創り出し、トロピカルフルーツのフレーバーを増加させている。
特に今回はパパイヤの風味が特徴的。
プレゼンの要旨
スペシャルティコーヒーの理想の世界
スペシャルティコーヒーがどこにでもある世界を想像してみてください。
スペシャルティコーヒーを大好きなレストランで注文できたり、スーパーや道端のショップで購入できたり。
倫理的に供給生産されたスペシャルティコーヒーを消費者が好む世界は、農家もサステイナブルな生計を立てることが可能となる。
私の夢は、完全にサステイナブルなコーヒーのエコノミーを創り出すこと。それこそが将来的に美しいコーヒーの将来へ貢献することにつながる。
バリスタになった理由
コーヒービジネスは15年以上経験している。
コーヒービジネスを異なる視点、特にバリスタの視点からみてみたくなった。
バリスタはコミュニケーションを通して消費者とつながるユニークな能力をもっている。
私は、このバリスタの能力が消費者の嗜好をシフトするカギだと考える。
バリスタになってすぐにしたことは、イノベーター理論(イノベーション普及学、the law of diffusion of innovation)に基づいて考えることだった。
スペシャルティコーヒーの消費者は次のタイプに分けることができる。
- イノベーター(革新者)
- アーリーアダプター(前期採用者)
- アーリーマジョリティー(前期追随者)
それぞれ、
- イノベーターには、エスプレッソコース
- アーリーアダプターには、ミルクコース
- アーリーマジョリティーには、シグネチャービバレッジ
を提供するのがスペシャルティコーヒーをより良く促進することにつながると考える。
普通のものを特別なものに転換することで、どんな消費者の嗜好にも適したドリンクを提供できると考える。
完全にサステイナブルなコーヒーのエコノミーを創り出すことで、世界中の人々をインスパイアすることができる。それはみんなで美しいコーヒーの将来へ貢献することにつながる。
イノベーター理論に基づくスペシャルティコーヒー戦略について
イノベーターについて
イノベーター(革新者)は、チャレンジに際し、他の人とは異なる考え方をする。
新しい製品や考え方をアグレッシブに追い求め、一番最初に試すのがイノベーターである。
このことを考慮すると、フレーバーやアロマをフォーカスしたエスプレッソコースが最良の選択となる。
アーリーアダプターについて
アーリーアダプター(前期採用者)は、実験的なことのポテンシャルを見て、新しいことに取り組むことが好きだ。
このことを踏まえて、普通のものを特別なものにすることにフォーカスする。
これにはミルクコースが最適。
ミルクコースのコーヒーは、実験的なことをしているエチオピアのグジ、メシナビレッジのコーヒーを選択。カーボニックマセレーションを行っていて、酸素フリーの環境を創り出し、トロピカルフルーツのフレーバーを増加させている。
ミルクも一般的なミルクをある施策で特別なミルクに転換した。
アーリーマジョリティーについて
次の層がアーリーマジョリティー(前期追随者)。
アーリーマジョリティーがスペシャルティコーヒーを受け入れるかどうかが、その次の大きなマスマーケットを獲得できるかどうかのカギとなる。
このことを踏まえて、親しみやすさにフォーカスしたシグネチャービバレッジを提供。
副材料は一般になじみのあるものを使用して特別なドリンクにする。
WBC 2019 -15位Michael Harris-プレゼンの流れ
- エスプレッソコース
- ミルクビバレッジ
- シグネチャービバレッジ
エスプレッソコース
イノベーターのために作成。
エチオピア・ゲシャビレッジ・オマブロック・ゲシャ1931 Lot#79を使用。
レシピ
- 粉量: 21.5 g
- 抽出量: 44 g
ディスクリプター
- 甘み:ミディアムハイ
- 酸:ミディアム
- 苦み:ミディアム
- 砂糖漬けのオレンジ
- パッションフルーツ
- ハニー
- アールグレイ
- ミディアムウェイト
- クリーミーな質感
- 長く続くフィニッシュ
ミルクビバレッジ
アーリーアダプターのためのドリンクを作成。
一般的なものを特別なものに。
ミルクドリンクは一番親しまれているコーヒードリンク。
コーヒーは、エチオピアのグジ、メシナビレッジのカーボニックマセレーションを選択。
レシピ
- 粉量:21.5 g
- 抽出量: 44 g
- ミルク量:90 g
- このコーヒーにひらめきを得て、ミルクは回転式のエバポレーター(rotating evaporator)を使用している。
- 回転式のエバポレーターで30℃という低温で1時間30分間真空環境にミルクを置いて、ミルクを蒸留させた。
- その結果ミルクの甘みが優しく増加し、ブリックス値11%から32%へ増加した。
- そして、そのミルク60%と全乳40%を混ぜて使用することでエスプレッソとハーモニアスなバランスをつくり出した。
ディスクリプター
- 溶けたチョコレートラムアイス
- パパイヤ
シグネチャービバレッジ
コンセプト
アーリーマジョリティー向けのドリンクを作成。
普通のものを特別なものに転換する。
親しみやすさを軸に、副材料も一般的でなじみのあるものを使用して、ゲシャビレッジのコーヒーをクラシックなルートビアのように親しみのあるドリンクへ転換させる。
具体的にはフィリピンのベンゲット州ラ・トリニダード町(La Trinidad,Benguet)からのもの。
そこは私たちがサポートしたコーヒー農園のコミュニティで、現在完全にサステイナブルなコーヒーエコノミーに転換している。農家は土地や自然の産物にとても敬意を払っている。
エスプレッソ 4ショット
- エチオピア・ゲシャビレッジ・オマブロック・ゲシャ1931 Lot#79を使用。
- 粉量:21.5 g
- 抽出量:44 g
- 冷却する。
材料1:サンパギータアロマをガス圧力で抽出した発酵ココナッツの乳酸 13 g
- ココナッツは12時間発酵させたものとフィリピン原産のサンパギータ(Sampaguita,茉莉花(マツリカ))の花を使用。
- サンパギータの花を容器にいれ、空気をポンプで送りその圧力でサンパギータのアロマを発酵ココナッツに抽出する。(プレゼンを見るとよくわかりやすいです。)
- サンパギータはジャスミンに似た花であり、そのアロマがココナッツの乳酸に溶け込む。
- ドリンクと合わさることで、オレンジの酸が強調される。
材料2:ベンゲット州ラ・トリニダード町産ストロベリー 16 g
- ストロベリーとハチミツを使用。両方ともベンゲット州ラ・トリニダード産のもの。
- 40℃で40%になるまでスゥヴィーしたもの。
- プルーンのフレーバーをもたらす。
材料3:ベンゲット州イトゴン町産のコールドブリューしたコーヒー 10 g
- このシグネチャービバレッジの一番大切な副材料。
- ベンゲット州イトゴン町(Itogon, Benguet)のコーヒー豆をコールドブリュー抽出したもの。
- ベンゲット州イトゴン町は、もともとは古い鉱山集落であったが、我々がコーヒー農園のコミュニティへと転換させた町。
- 独特のアニスとチェリーのフレーバーがあり、他の材料と合わさることで、ロートビアの風味をもたらす。
シグネチャービバレッジの工程
- エスプレッソを各コースで抽出して冷やしておく。
- 全材料をまで、窒素充填する。
- グラスに注いで提供。
ディスクリプター
- ルートビア
- プラム
- 新鮮なオレンジ
補足:Michael Harrisバリスタとベンゲット州イトゴン町について
Philippine Primerによると、イトゴン町はもともと鉱山地帯で生計を立てる人々が多く住んでいました。しかし、鉱山採取に関する規制の強化に伴い、メイン収入の柱を失ってしまう自体となりました。
そこで社会起業家でもあるMichael Harrisバリスタは、イトゴン町長へビジョンを伝えイトゴン町を持続可能なコーヒー生産地コミュニティーに転換することになったようです。
またEsquireMag.phによると、P25 per kilo(約52円/kg)でコーヒーを販売している農家もあり、Michael Harrisバリスタはそれに対し不平等な取引だと考え、Michael HarrisバリスタのチームでP90 per kilo(約190円/kg)で買う決断をしました。
イトゴン町のコーヒー農家の収入が劇的に上がり、良質なコーヒーチェリーを進んでピッキングしてMichael HarrisバリスタがCEOを務めるHenry and Sonsへ販売するようになりました。
さらにグランド ハイアット マニラともパートナーシップを結び、イトゴンのコーヒーを5つ星ホテルのカフェでの提供を実現しました。
このことを踏まえてプレゼンの内容を振り返ってみると、「完全にサステイナブルなコーヒーのエコノミーを創り出すこと」を目標にしているMichael Harrisバリスタの1本真っすぐに筋の通った主張とその行動力を称賛せずにはいられないところです。
関連記事
ワールドワリスタチャンピオンシップ2019のまとめ
スゥヴィーを利用したプレゼン
- 2位ギリシャ代表MICHALIS DIMITRAKOPOULOS|ワールドバリスタチャンピオンシップ2019
- 9位ロシア代表KONSTANTIN KHRAMOV|ワールドバリスタチャンピオンシップ2019
- ワールドバリスタチャンピオンシップ2018-3位スイス代表マチュー・タイス
- ワールドバリスタチャンピオンシップ2018-4位ギリシャ代表ミカエリス・カチアボス
- ドーン・チャン|WBC2015-4位プレゼン-香港代表
スポンサーリンク
コメントを残す